「ロスコ的経験――注意 拡散 時間性」(終了しました)

UTCPワークショップ「ロスコ的経験――注意 拡散 時間性」は無事に終了しました。部屋に入りきれないほど多くの人が来て下さいました。聞きに来て下さった方々、林道郎さん、田中正之さん、近藤学さん、準備して下さったUTCPの方々、ありがとうございました。私自身、大いに勉強になりました。今回は、川村記念美術館のカタログ『マーク・ロスコ』(淡交社、2009年)に書いた文章に沿って、適宜補足を入れながら発表させていただきました。

発表のときに触れられませんでしたが、文章を書いてからいくつか気づいたことがあります。まず、なぜラカンではなくて吉本隆明なのかという点です(終了後に林さんからも指摘されました)。たしかに、文章中で鏡の比喩を用いたので、ラカン鏡像段階の比喩の方が良さそうですが、鏡像段階は、象徴秩序に参入するための前段階であるのに対して、対幻想は、共同幻想に取り込まれない領域を作り出している(と解釈されている)ので、後者を分析概念に用いました。参照されやすい鏡像段階論を避けたかったというのもあります。ただ、鏡像段階論を用いた方が対象の非実在性が明確になるので、そのほうが議論としては正確になったかもしれません。

それから、対幻想は、今回の展示にはあまり当てはまらないのではないかという指摘も受けましたが、それはその通りだと言わざるを得ません。私が依頼されたのは、壁画プロジェクトに至る前段階の時期の絵画に関する文章でしたので、取り囲んで場を作り出す絵画には、そのままでは当てはまりにくいと思います(ただし、林さんのように、対面構造の反復・連続として壁画プロジェクトを捉えることは可能です)。シーグラム壁画はロスコが途中で放棄したプロジェクトですので、ロスコが求めた絵画体験をどのように捉えるのかも難しいところです。

マーク・ロスコ――カラー・フィールド上の感情」(UTCP(東京大学 共生のための国際哲学教育研究センター)ワークショップ「ロスコ的経験――注意 拡散 時間性」、東京、東京大学、2009年5月22日).