『アンフォルム』刊行!

『アンフォルム』がついに刊行されました。

アンフォルム―無形なものの事典 (芸術論叢書)

アンフォルム―無形なものの事典 (芸術論叢書)

  • 作者: イヴ=アラン・ボワ,ロザリンド・E・クラウス,Yve-Alain Bois,Rosalind E. Krauss,加治屋健司,近藤學,高桑和巳
  • 出版社/メーカー: 月曜社
  • 発売日: 2011/01/01
  • メディア: 単行本
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学部生の頃、現代美術に興味を持って『オクトーバー』誌を購読し始めたときに、最初に読んだ記事が、アンフォルムとアブジェクトをめぐる共同討議でした(Hal Foster, Benjamin Buchloh , Rosalind Krauss, Yve-Alain Bois, Denis Hollier, and Helen Molesworth, "The Politics of the Signifier II: A Conversation on the Informe and the Abject," October, no. 67 (winter 1994), 3-21)。
その後、96年にフランス語版、翌年英語版が出て、近藤、高桑の両氏と翻訳することになってから、ずいぶん時間が経ってしまいました。その間お待ちいただいた方、どうもすみませんでした。翻訳自体は何年も前に終わっており、ようやく刊行されて、私もうれしく思っています。
英語版が刊行されてアメリカに行ってから、私自身の関心は、理論的なものから理論的なものの歴史性へと移行しました。というか、ボワもクラウスも何よりも歴史家であって、『アンフォルム』もまたそうした動機のもとに書かれているのではないかと、今では思います。したがって、歴史的な文脈を踏まえずに『アンフォルム』から何らかの理論を取り出そうとする試みについては違和感を感じてきました。それはもしかしたら、哲学や理論(theory)がもつ意味の、英米圏と日本での違いに起因するのかもしれません。美術について書くアメリカの哲学専門家で、広く読まれているのは、ほぼダントだけですが、ダントも『ネーション』誌で長年にわたり展評を担当してきたからこそ、信頼されているところがあると思います。
とは言え、アーカイヴ調査に依存した実証的な研究がベストかと言えば、そうでもないので、理論を道具として使いながら、歴史的なものを理論的に捉え直していく必要があると感じています。手前味噌で恐縮ですが、『アンフォルム』はそれが成功している希有な事例ではないかと思っています。